あついひ、後日



放課後恋の悩みを聞いてやるとか何とか言われた日から、沖田さんはちょくちょく僕に話
しかけてくるようになった。世間一般からしたら他愛ないとは言い難いけど…まァ、うち
のクラスにしたら他愛もない話をする。土方さんがどこでどのメーカーのマヨネーズを大
人買いしてるのを見たとか、近藤さんがまたうちに上がりこんでたとか、神楽ちゃんが学
校の門をどうやって破壊したとか。
僕は沖田さんにお姉さんがいることを知った。下級生どころか他校の生徒にまで人気があ
ることを知った。いつも学校帰りに駄菓子屋さんに寄っていることを知った。家が同じ方
面にあることを知った。好きな映画のジャンルを知った。毎朝新聞に目を通していること
を知った。いろいろ、知った。
趣味は変わってる…と思う。まぁSらしいといえばSらしいというのか。こないだは女子プ
ロで女どもが醜い表情でつかみあってるトコを爆笑しながら見るのが趣味だといってい
た。ある意味、あのダメ教師の先行きよりも心配かもしれない。

「今日も真面目ですねィ」
「…沖田さんは今日も不真面目ですね」

いつも沖田さんは部活をサボって僕が日誌を書いてるのを見に来る。そうしていつも当然
みたいに僕の前の席にどかっと座って僕の手元を見ているのだ。ぽつぽつと何か話してい
るときもあるし、話さないときもある。沖田さんにじっと見られているのに最初は慣れな
くて気になって仕方なかったけれど、今はもうあまり気にならない。今日も沖田さんに手
元を見つめられたまま僕はこつこつと日誌を書き進める。
相変わらず日誌に特記するようなことは何もない。今日は近藤さんも来ていたから欠席者
もいない。数学の授業中には神楽ちゃんがキャサリンさんと赤いウインナーを巡って乱闘
を起こし、僕が昼休みに沖田さんが土方さんに金属バットで殴りかかろうとしていたのを
目撃してしまった以外は全く普通の日だった。
…まぁ、当然ながら誰が見るかも分からない日誌に今日起こった異常な出来事を書くこと
も出来ず、僕はただ授業の内容をかりかりと記していった。

「細ェ手首」

ちらりと目だけで沖田さんの顔を見ると、沖田さんはじっと僕の手もとを見ていた。僕は
シャーペンを置いてぶらぶらと手首をふってみせる。

「そうですか?沖田さんもこんなもんでしょう?」
「いや……」

沖田さんはぼんやりした声でそう言ってじっと僕の手元を見ながら、僕の手首を掴んだ。
どきんと心臓が鳴る。あのときと同じ感じだ。ざわめきが遠くになって時計の針の音だけ
が響いて、身体が火照ってくる。沖田さんから目を逸らせない。

「あれから…俺のこと考えやしたかィ?」
「おきた、さん、の…こと…ですか?」

強い力で掴まれた手が口元へ運ばれる。僕が振りほどけないほど力強いのに全然痛くはな
い。背中を、たらりと汗が伝った。やわらかい唇が人差し指に触れる。
思い返す。このあいだの出来事から僕はどれくらいの時間、沖田さんのことを考えていた
だろう。柔らかそうな髪質と髪色のことや女の人みたいに綺麗な白い肌のこと、見つめら
れたら動けなくなるほどに鋭い真剣な目つきのこと。
…ああ、僕はどれくらい沖田さんのことを考えてた?

「新八くん」

ぬるりとした感触に人差し指と中指が包まれた。沖田さんが僕の指を口に含んでいる。そ
の、形の良い唇に。
異常だと、そう思ったのに僕はそれを振りほどくことが出来ない。ただ単に力が強いから
とかではなく、あのときみたいに催眠術にかかったように動けない。吐き出そうとしたや
めてくださいという言葉は喉元で引っかかって出てこようとしないし、自由の利く左手は
日誌の上に添えられたまま、かたかたと震えている。その震えは恐怖によるものなのか興
奮によるものなのか、それとも緊張によるものなのか。左手の持ち主の僕ですら判別し辛
い。右手を包み込むなまあたたかい咥内。それは、ビデオや漫画なんかでよくある"行為"
のようだった。沖田さんはまるで本当にその"行為"に励んでいるみたいに、僕の顔色をう
かがうように覗き込んでくる。それが恥ずかしくてそっと俯くと、沖田さんは目を伏せ
た。

「なァ」

関節の部分を舐められてから、舌が指の内側を滑っていく。付け根を、ちゅうと、可愛ら
しくていやらしい音をたてて吸われて下唇を噛みしめた。
自分から漏れる息。お腹の中でぐるぐるしている熱。認めたくないけれどこれは快楽だ。
それは脳内を侵食して僕の感情や理性や常識を塗りつぶしていく。ここが学校だとか誰に
見られてもおかしくない教室のど真ん中だとか、どうでもよくなる。僕はどこにも目をや
らずに、ぼやけて歪んだ視界の中でただ静かに伏せられた沖田さんの睫毛を見ていた。長
く綺麗なそれは沖田さんの肌に影を落としている。その様は率直に美しいと思えた。

「新八くん」
「は…ぁっ」

ぱた、と音がして日誌の上に唾液が落ちる。よごれちゃう、これ以上はだめ。頭の中で誰
かが僕を諭そうとしているのを、無視した。
沖田さんがゆっくりと視線をあげると、じっと睫毛を見つめていた僕の視線とかち合っ
た。

「好きですぜ」

沖田さんが僕の指先に唇をつけたまま低い声でそう呟いた瞬間、僕の中の何かが爆ぜた。
沖田さんの髪、沖田さんの肌、沖田さんの目、沖田さんの声、沖田さんの唇、沖田さんの
舌、沖田さんの手、沖田さんの、沖田さんの、沖田さんの沖田さんの沖田さんの。
頭の中がそれらでいっぱいになって、他に思考が追いつかない。だるくて熱い体は相変わ
らず主を無視して勝手に熱を上げていく。ぼんやりとして澱んだ思考のまま沖田さんの目
を見つめると、新八、と呼ばれた。違和感を感じるけれどそれも一瞬後には消える。沖田
さんは掴んでいた僕の手首を離して、今度は恋人同士がそうするように自分の手と僕の手
を重ねた。そしてさっきまでの行為とは正反対の優しい、まるで忠誠を誓うようなキスを
手の甲に落とす。

「おきた、さ、」

熱くて息が出来ない。ゆらゆら揺れる視界の中で、綺麗な沖田さんの顔が近付いてくる。
やがて意識が真っ黒に塗りつぶされて、僕は何も分からなくなった。





あわわわわっ///なんとまたもや「 ハルシオン 」のゆうやさんから頂きましたーっっ!!しっしかも私のサイトが1万HITした記念に書いて下さったのですっっ!!!
そしてなんと!あの「あついひ」の続きなのですよーっ!!(大興奮)まさか…まさか本当に続きが読めるなんて…夢にも思いませんでしたーvvv
沖田フェロモン(何だソレ…?)むんむんのエロかっこ良過ぎる沖田さんと、沖田さんの事しか考えられなくなっているのに色気たっぷりで可愛い新八に
私のハートは丸コゲどころではすまされませーーーーーんっっっ!!!!!どう責任取って頂けるのですか?!ゆうやさん!!(調子に乗りましたー!)
なんだか私だけ素敵な物ばかり頂いてしまって本当に申し訳ないです!!でもでも物凄く嬉しですv幸せですvv愛してますーvvv
ゆうやさん本当にありがとうございました!!大切に大切に致しますvvv